本日、「所有者不明土地問題に関するセミナー」に参加してきました。
当事務所は、用地取得を専門とする行政書士として、この課題への対応策を深く掘り下げてきました。
セミナーの参加者は公共団体職員が中心でしたが、そこで紹介された解決手法、特に共有物分割請求訴訟は、民間事業者による用地取得を円滑に進める上で極めて有用な手段であり、当事務所としても改めてその重要性を認識しました。
このブログ記事では、今回のセミナーで得られた知見を基に、所有者不明土地問題の現状、発生予防策、そして事業用地取得に活用できる具体的な解決手法について、行政書士の立場から解説します。
1.所有者不明土地問題の現状と発生予防策(法務局の取り組み)
所有者不明土地とは、
①不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地、または
②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地を指します。
国土交通省の調査(R5)によれば、所有者不明土地の割合は全体の26%にも上り、その主要な原因は相続登記の未了(62%)と住所変更登記の未了(32%)とされています。
これらの土地の存在は、公共事業や民間取引を阻害し、土地の利活用を困難にし、さらには管理不全による隣接地への悪影響を引き起こすという深刻な課題を抱えています。
この問題の発生を根本から予防するため、法務局(法務省)主導のもと、民事基本法制および不動産登記制度の抜本的な見直しが行われました。
(1)相続登記の義務化と負担軽減策
最も大きな改正は、相続登記の申請義務化です(令和6年4月1日施行)。
不動産を取得した相続人は、「自己のために相続の開始があったこと及びその所有権を取得したことを知った日」から3年以内に相続登記の申請が義務付けられます。正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象となります。
相続人の負担軽減のため、簡易な手続きも導入されました。
1. 相続人申告登記制度の新設
相続人が、所有権登記名義人について相続が開始した旨と、自らがその相続人である旨を3年以内に申し出れば、申請義務を履行したとみなされます。
法定相続分の割合や遺産分割の確定が不要であり、添付書類も申出人自身の戸籍謄本で足りるため、資料収集の負担が大幅に軽減されます。
2. 所有不動産記録証明制度の新設
相続人が被相続人名義の不動産を一覧的に把握できるように、登記官がリスト化して証明する制度です(令和8年2月2日施行予定)。
これにより、相続登記の登記漏れを防ぎます。
3. 死亡情報についての符号の表示
登記官が住基ネットなどの公的機関から取得した死亡情報に基づき、登記簿に死亡の事実を符号で表示する制度です(令和8年4月1日施行予定)。
これにより、事業用地の選定段階で所有者の死亡を確認でき、その後の交渉が円滑になることが期待されます。
(2)住所等変更登記の義務化とスマート変更登記
住所変更登記の未了も大きな問題でしたが、これも義務化されます(令和8年4月1日施行予定)。
所有権の登記名義人は、住所等を変更した日から2年以内に変更登記の申請が義務付けられ、違反には5万円以下の過料が科されます。
また、実効性確保のため、登記官が他の公的機関(住基ネットや商業・法人登記システム)から情報を取得し、職権で住所変更登記を行うスマート変更登記制度が導入されます。
個人は、事前に検索用情報(生年月日等)を申し出て了解を得ることで、自動的に職権登記が行われ、申請義務が履行済みとなります。
法人についても、会社法人等番号を登記事項とすることで、同様のシステム連携が可能となります。
2.土地を手放すための制度と国有財産の管理(財務局の取り組み)
相続したものの、利用価値が乏しく、管理の負担だけが残る土地を国庫に帰属させる制度も創設されました。
(1)相続土地国庫帰属制度
所有者不明土地の発生予防策の一つとして、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)が令和5年4月27日から施行されています。
これは、相続または遺贈により土地を取得した者が、法務大臣(法務局)の承認を受け、審査手数料と10年分の土地管理費相当額(原則20万円)の負担金を納付することで、国庫に土地を帰属させる制度です。
ただし、通常の管理または処分をするに当たり「過分の費用又は労力を要する土地」(例:建物がある土地、土壌汚染がある土地、無道路地など)は、国庫帰属が不承認となる要件に該当します。
(2)財務局による帰属土地の管理・処分
国庫に帰属した土地のうち、農用地及び森林以外の土地(宅地やその他)の管理・処分は財務省(財務局)が行います。
東北財務局管内における帰属事例を見ると、約8割が「宅地」であり、そのうちの約4分の1が接道していない無道路地であったなど、管理の難しい財産が多く含まれている実態が確認されています。
財務局は、国有地の管理コスト削減と有効活用のため、売却までの間、駐車場や資材置場として暫定的な貸付けを行ったり、また、地域・社会のニーズに応じた有効活用を推進するため、不動産情報サイトとの連携や宅地建物取引業者による媒介契約を活用した情報発信を行っているとのことでした。
3.事業用地取得のための具体的な解決手法
用地取得を進める中で、所有者が不明であったり、一部の共有者が所在不明または非協力的なために合意形成が困難となるケースは多々あります。
今回のセミナーでは、土地収用法に基づく手続き以外の解決策として、主に以下の3つの手法が紹介されました。
このうち、「共有物分割請求訴訟」は、民間事業者による用地取得においても強力な武器となります。
(1)所有者不明土地管理制度の適用
所有者不明土地管理制度は、所有者の所在が不明で、その土地の利用や管理が適切に行われていない場合に、裁判所が所有者不明土地管理人を選任し、管理人が土地の処分権限を得て売買を可能にする制度です。
セミナー内の事例では、登記簿の表題部所有者欄に氏名のみが記載され、戸籍調査では同一人物の特定に至らなかった原野の取得にこの制度を適用していました。
手続き期間は、申立てから支払い完了まで約9ヶ月を要していました。
事業用地取得の視点: 裁判所や法務局との事前の調整が非常に重要であり、案件によっては不在者財産管理人制度や相続財産清算人制度を含め、最も効率的に進められる手法を検討すべきです。
(2)共有物分割請求訴訟の適用(民間利用の要点)
事業用地取得において、少数持分権者が非協力的な場合や所在不明である場合、その持分を取得することができず、事業が停滞することがあります。
このような場合、民法に基づく共有物分割請求訴訟は、公共・民間を問わず、共有状態を解消するための強力な手段になりえます。
① 請求の要件の緩和
改正民法(令和5年4月1日施行)により、請求の要件に「共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないとき」が追加されました。これにより、協議に応じない共有者がいる場合でも、裁判所に分割を請求できるようになり、利便性が向上しました。
② 分割方法:全面的価格賠償
この訴訟の目標は、取得を希望する者が共有物全体を取得し、他の共有者にその価格を賠償する「全面的価格賠償」の判決を得ることです。
全面的価格賠償を求めるには、最高裁判例が示した以下の要件をすべて充足することを疎明する必要があります。
• 当該共有物を特定の者に取得させるのが相当であると認められること(本件土地の性質、事業主体による取得の必要性など)。
• 価格が適正に評価されていること。
• 当該共有物を取得する者に支払能力があること。
• 他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があること。
③ 賠償金の支払いと登記
所在不明または協力拒否の相手方に対する賠償金の支払いは、民法の規定(弁済の受領拒否または受領不能)に基づき、「供託」手続きによって行うことが可能です。
これにより、非協力的な相手方との連絡調整なしに支払いを完了させることができます。
判決が確定し、賠償金の供託が完了すれば、不動産登記法第63条第1項に基づき、共同申請主義の例外として、国(取得側)が単独で所有権移転登記を申請することが可能となります。
この際、判決書正本、確定証明書に加え、供託書正本を添付して裁判所に申請し、執行文の付与を受ける必要があります。
事業用地取得の視点: 共有物分割請求訴訟は、通常の訴訟と異なり、裁判所の裁定を仰ぐ非訟事件に近い性質を持つため、手続きが比較的早期に進むことが見込まれます(セミナー内の事例では訴訟提起から判決確定まで約6ヶ月)。
これは、事業用地取得を迅速に進める上で非常に強力な手段となります。
(3)裁定申請の適用
裁定申請は、土地収用法の事業認定手続きにより告示を得た事業において、「特定所有者不明土地」を収用等する場合に適用が可能な手続きです。
この制度の適用により、土地・物件調書の作成や審理の手続きが省略され、手続き期間の短縮が図られます。
事業用地取得の視点:これは土地収用法に基づく公共性の高い事業に特化した手法であり、民間事業の用地取得においては適用されません。
4.まとめ:行政書士事務所の支援
所有者不明土地問題は、法制度の整備(予防策)と、積極的な利活用(解決策)の両面から進められています。
特に、令和6年4月に施行された相続登記の義務化については、国民各層への十分な周知が喫緊の課題とされています。
当事務所は、行政書士として、所有者不明土地問題の解決に不可欠な事実調査、権利関係の整理、および各種行政機関への提出書類(弁護士・司法書士等が代理する場合はその準備書類)の作成を通じて、クライアントの用地取得事業を支援してまいります。
用地取得における当事務所の支援
1. デューデリジェンス
登記簿上の所有者情報や所在地情報が不完全な場合、戸籍・住民票の調査、現地訪問等を行い、所有者やその相続関係を特定する探索作業をサポートします。
2. 所有者不明土地解決に向けた準備支援(書類作成)
・共有物分割請求訴訟や所有者不明土地管理制度の適用を検討する際、クライアントが弁護士や司法書士に依頼するための準備として、必要な事実調査や添付書類の作成を支援します。
・特に、全面的価格賠償を求めるための要件(土地の性質、事業主体による取得の必要性など)を疎明する報告書や根拠資料の作成をサポートします。
・関係行政庁との事前調整に必要な資料提出や情報整理を通じて、クライアントが効率的に手続きを進められるよう支援します。
3. 予防法務と情報提供
相続登記義務化や住所等変更登記義務化など、新しい制度の概要と、それらが用地取得に与える影響について、クライアントに対して最新の情報提供と助言を行います。
所有者、相続人の探索でお困りの方は以下のフォームよりお気軽にお問合せください。
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